【フェルメール】眠る女の作品解説【決定版】
フェルメールが得意とする女性単独人物画の中で初めて描かれた作品が本作品である【眠る女】です。
この作品以降、フェルメールは女性単独の室内人物画を好んで描いくようになります。
この記事では、そんな【眠る女】について解説しています!
①作品の概要
◎メトロポリタン美術館蔵(アメリカ・ニューヨーク)
◎1657年作
◎油彩・カンヴァス
◎87.6cm×76.5cm
フェルメールがはじめて本格的に取り組んだ風俗画です。
それまで大型の物語画ばかり描いていたためか、後年の室内画に比べてサイズが大きいです。
女中が一人静かにまどろんでいますが、めかし込んだ様子と卓上のグラスなどから、この女中が客人をもてなした後に居眠りをしているシーンであることが見てとれます。
17世紀の風俗画には、しばしば召使いの居眠りをする姿が描かれ「怠惰」をとがめる寓意画とされていますが、本作には別の意味がありそうです。
②絵の見どころ・解釈
フェルメールの、それまでのような神話やキリスト教の説話の要素を全く感じさせないという点では、初めて取り組んだ本格的な風俗画といえるでしょう。
フェルメールは、傷心の女性が酒を飲むとどうなるかを描いているようです。
テーブル上の飲みかけのワインと水タバコに酔ったのでしょうか、女性はテーブルに肘をつき、眠っています。
X線調査で、犬や一人の男を描こうとした形跡が明らかになっていますが、フェルメールは最終的に「眠る女」だけを残したことによって、静かな音のない室内(または思索にふける)女性の存在を際立たせることに成功しています。
画面左奥の壁の絵には、「愛」の象徴のキューピッドの足元に「偽り」を意味する仮面が描かれており、恋に憐れむ女と暗示することができます。
X線写真:X線が鉛などの重い元素を含む顔料の塗られた部分、あるいは分厚く塗られた部分を透過しにくいことを利用した工学的な美術調査法の一つ。下書きの様子、使用顔料、さらには描き直し(ペンティメンティ)などの貴重な情報が得られる。
③絵の技法・画法・背景
フェルメールの【眠る女】の主題は、テーブルの前で居眠りする女です。
本作品を描く少し前の1655年、ニコラス・マースが《居眠りする女中》を描いていました。
フェルメールは、何らかの経路を通じて、その試みを知ったのでしょう。
マースの作品は、16世紀の厨房画(静物画の題材に野菜などの食材を選んだもの)の構図を利用しつつ、そこから宗教性を拭い去り、代わりに市民社会のモラルを盛り込んで作られています。
かつて厨房画の流れを汲む【マルタとマリアの家のキリスト】を取り上げたフェルメールには格好のお手本になったのではないでしょうか。
また、【眠る女】の作中には見る者と絵画空間の間には依然としてタペストリーがバリアのように立ち塞がっています。
若い女性一人を主人公にすることで、フェルメールは自分の型を見出していったのです。
④おわりに
ニコラス・マースの《居眠りする女中》には猫が描かれており、フェルメールも上述した通り、犬を描きましたが、最終的には塗りつぶしました。
自らの風俗画にどのような付加価値をつけるべきか、美術市場を睨むフェルメールの視線はこうして徐々に研ぎ澄まされていくのでした。
下記では、他にもフェルメールの全作品を解説していますので、コチラもあわせてご覧ください。