【フェルメール】マルタとマリアの家のキリストの作品解説【決定版】
フェルメールは【牛乳を注ぐ女】や【青衣の女】などの風俗画を描いた作品が多いです。
しかし、この【マルタとマリアの家のキリスト】は風俗画と異なり、数少ない宗教画です。
また、この作品は「光の画家」フェルメールの原点ともいえるでしょう。
この記事では、そんな【マルタとマリアの家のキリスト】について解説しています!
①作品の概要
◎スコットランド国立美術館蔵(英スコットランド・エジンバラ)
◎1654〜55年ごろの作品
◎油彩・カンヴァス
◎158.5cm×141.5cm
キリストの左側に立つのは姉マルタで、足元にしゃがみこむのは妹マリアです。
キリストをもてなすために立ち働く姉が、話に聞き入って働こうとしない妹をなじると、キリストが「マリアは必要なことをしている」とマルタを諭します。
『新約聖書』ルカ伝10章の一場面を描いたフェルメール最初期の作品で、希少な宗教画です。
絵の大きさも画風もフェルメールの代表作の風俗画とはかなり違いますが、濃密な室内空間はすでにフェルメールらしさが表れています。
本作は、ルーベンスの弟子のエラスムス・クウェリヌスによる同主題の作品を参考にした可能性が指摘されています。
②作品の見どころ・解釈
現存するフェルメール作品の中で最大級のサイズにして最初期の作品です。
フェルメールは購入後壁にかけやすい小さなサイズの絵を多く描きました。
珍しく大きなサイズの本作は依頼されて描いたと考えられます。
マリアの背中あたりに描かれたタペストリーは、当時は高級品です。
この「タペストリー」は色彩を変え、度々フェルメールの作品に描かれたモチーフでした。
マルタ・キリスト・マリアを線で結ぶと三角形の構図となり、三人の対立と融和を示唆しています。
さらに、頬杖をつく瞑想の姿勢でマリアの賢い選択を示しています。
また、大きなパン一つにマルタの世俗性を託し、構図の真ん中に白い布を置くことで、聖俗の対立を解釈し直しています。
作品から力強さを感じることができますが、室内の構成にはあまりまとまりがありません。
キリストは椅子からずり落ちそうになっていたり、その右腕は隣接のマルタの左腕に比べて短すぎたり、身体のモデリングは実に弱々しいです。
また、よく見てみるとマルタの右手はなくなっていることがわかります。
③作品の技法・画法・背景
風俗画を得意とし、一般民衆のふとした瞬間を絵画に落とし込んだフェルメールですが、初期には宗教画も手がけており、本作もその一つです。
本作を描いた頃は、フェルメールはまだ20代前半で、この時期には聖書や神話などをモチーフとした宗教画を描いていました。
宗教画を描くことは、当時の画家たちにとっては当たり前のことで、一般的な価値においても高く見られていました。
また、影、厚い絵の具をのせた筆さばきで光を巧みに利用して主題を提示し、画面近くに大きく人物を配置する構図になっています。
この構図は、カルヴァッジョの影響を受けていたユトレヒト派からインスピレーションを受けていたことが分かります。
④おわりに
【マルタとマリアの家のキリスト】はフェルメールの数少ない現存している宗教画で、初期のフェルメールがどのような師のもとで学び、何を目指していたかを考察する際に、重要な手がかりとなる作品です。
「光の画家」と呼ばれる、フェルメール独自の光と影の表現の原点を感じさせる一枚とも言えるでしょう。
下記では、他にもフェルメールの全作品を解説していますので、コチラもあわせてご覧ください。