【フェルメール】ディアナとニンフたちの作品解説【決定版】
【ディアナとニンフたち】はフェルメールが神話の一場面を描いたもので、暖色がうまく溶け合った絵です。
以前は昼の絵でしたが、一転夜の絵に変わりました。
この記事では、そんな【ディアナとニンフたち】について解説しています!
①作品の概要
◎マウリッツハイス美術館蔵(オランダ・ハーグ)
◎1655〜56年ごろの作品
◎油彩・カンヴァス
◎97.8cm×104.6cm
額に三日月を冠するのはギリシャ神話の月の女神であるディアナです。
4人のニンフ(妖精)を従えて狩りに出かけ、休憩している場面を描いています。
【ディアナとニンフたち】は、現存するフェルメール作品の中では神話を題材にとった唯一の作品です。
オレンジ・黄・ピンクが溶け合う暖色系の色調は、ヴェネツィア派に類似しているとも言われています。
レンブラントが描いた【水浴のバテシバ】とディアナのポーズが似ていて、参考にした可能性があります。
後世の誰かの手によって一度は青空が見える昼の情景に描き変えられていましたが、1999年の修復の際に、もともとは夜の情景だったことが分かり、本来の色に戻されました。
青空がなくなったことで、明暗表現の不自然さが消え、瞑想的な雰囲気が一層高められたように見えます。
また、科学的な調査により、右端が12cmほど切断されていることが判明しています。
②作品の見どころ・解釈
水浴後に、女主人と使用人たちがくつろぐ場面のようでありながら、画面中央の女性は額に三日月の月飾りをつけていることから、ギリシャ神話に登場する月の女神ディアナだとわかります。
周囲を取り巻くのは、女神の従者であるニンフ(妖精)たちです。
古代神話の一場面を描いた「神話画」の中には、この絵のように小道具によって神話の世界であることを暗示させる作品もあり、総じて歴史画の一つのジャンルとされました。
美しい色合いの衣装に身を包んだ女性たちにはフェルメールの「青と黄色の画家」らしい色彩がすでに現れています。
また、絵の左下には、フェルメールにしては珍しく動物(犬)も描かれています。
左手前のアザミは現世の苦しみを象徴し、足を洗う行為はキリストの足をマグダラのマリアを連想させるなど、宗教性を帯びているという解釈もなされています。
一般的にディアナの主題は狩りを終えた女神一行が水場で休息する華やかな場面として描かれたり、アクタイオンやカリストを登場させて躍動感のある物語に仕立てられています。
しかし、フェルメールの【ディアナとニンフたち】は他の作品と比べると異様で月の形髪飾りをつけた中央のディアナは主役のはずなのに頭がはっきり見えません。
侍女たちも目を伏せ、左端の侍女は背中を鑑賞者側に向けています。
ディアナが常時連れている犬でさえ、ほとんど生気が感じられません。
というのも、フェルメールは皆の口を閉ざし、静寂の中で足を洗う行為に注意を引きました。
後の風俗画にも通ずるこの描き方は、独自性を模索する画家の意思をうかがわせます。
③作品の技法・画法・背景
同時期の作品である【マルタとマリアの家のキリスト】とは三原色を主体にした色彩など共通点があります。
しかし、筆遣いはずいぶん違います。
大きな流動的な筆遣いを特徴とする【マルタとマリアの家のキリスト】に対し、【ディアナとニンフたち】ではヴェネツィア派を思わせる色彩が丁寧に着色されています。
構図的には、ヤーコブ・ファン・ローの同じ主題の作品から影響されているであろうと考えられています。
とりわけ同じダイアナの傍に座って、片方の足を洗うニンフの姿、対角線上に戸外の人物を配する構図には直接の引用の可能性さえ感じられます。
17世紀のオランダでは、市民の間で絵画の需要が高まったことにより、風俗画が人気を得ましたが、数こそ減ったものの聖書や神話を題材にした歴史画も描かれていました。
狩猟と月を司る女神ディアナを主題とした作品は時代を超えて人気があり、名だたる巨匠たちが描いています。
歴史画家を目指していたフェルメールが初期にこの主題に取り組んだのも、ごく自然のことだったと言えます。
④おわりに
【ディアナとニンフたち】は、同じ時期に描かれたはずの【マリアとマルタの家のキリスト】とは描く方法が大きく異なります。
多くの研究者が認めるように、本作品の着色はヴェネツィア的な技法を強く想起される作品なので、ぜひ他のフェルメール作品との違いを楽しんでください!
下記では、他にもフェルメールの全作品を解説しています。コチラもあわせてご覧ください。