【フェルメール】天秤を持つ女の見どころと解説【決定版】
【天秤を持つ女】は空の天秤の中身を画中画が暗示している作品で、作者は【牛乳を注ぐ女】や【真珠の耳飾りの少女】でお馴染みのヨハネス・フェルメールです。
天秤を持つ女が描かれた何気ない風俗画に見えますが、フェルメールの計算し尽くされた構図、主題、寓意などが巧みに表現された作品であるといえるでしょう。
この記事では、そんな【天秤を持つ女】について解説しています!
①作品の概要
◎ワシントン・ナショナル・ギャラリー所蔵(アメリカ・ワシントン)
◎1664年ごろ
◎油彩・カンヴァス
◎39.7cm×35.5cm
カーテンにさえぎられ、ようやく入ってきた薄明かりが照らすのは女性の持つ天秤です。
それは、ちょうど画中画の左下にあり、画面の重心にあり、消失点の位置にあり、女性の視線の先にあります。
本作品は、天秤を消失点として遠近法を使って描かれているのです!
卓上には真珠が輝いていますが、天秤の皿には何も載っていません。
その理由は、おそらく女性の背後に掛けられた画中画《最後の審判》にあります。
大天使ミカエルが死者の行き先を天国か地獄かに審判するというポピュラーな画題です。
②作品の見どころ・解釈
【天秤を持つ女】は、上述した通り、女性の背後に《最後の審判》の絵が掛けられていることに注目です。
《最後の審判》は宗教画の中ではポピュラーな画題であり、大天使ミカエルが死者の行き先を天国、あるいは地獄にするか審判を下す情景が描かれます。
また、一見しただけでは判別が難しいですが、近年の研究により秤の皿には何も載っていないことが明らかになっています。
これは女性が物質的なものではなく、精神的なものを量っていることを意味しています。
とりわけ、《最後の審判》の絵が掛けられていることを考慮すれば、それは魂を量る行為かもしれません。
なぜなら、背後に掛けられた《最後の審判》では、神に代わって大天使ミカエルが人の魂を量りますが、その大天使がいるはずのところに天秤を持つ女性の頭部がちょうど重なっているからです。
フェルメールは、その絶妙な聖と俗の世界の交錯を、画中画《最後の審判》の額の枠のところに天秤を持つ女性の手を描くことで、もう一度強調しているのです。
③作品の画法・技法・背景
天秤で何かを量っている人物の絵は、両替商の図として16世紀から連綿と描き継がれてきましたが、量られるのは彼らの仕事になくてはならない、金、銀、銅でした。
そして強調されるのは、世俗の富に執着する貪欲さへの警告の念でした。
一方、女性を主人公にした17世紀の風俗画では、コインを量ることは、悪貨を見分け、家計を正しく保つ主婦の美徳の称揚という側面をあわせ持っていました。
【天秤を量る女】は、同じ頃に描かれたピーテル・デ・ホーホの《金貨を秤る女》から着想を得て、描いたと考えられています。
《金貨を秤る女》ではフェルメール作品に見られるように静けさはなく、作品を比較するとフェルメール独特の世界が見えてきます。
家事を切り盛りし、家族の世話をし、家庭生活が円滑にいくように心を配ること、それは17世紀オランダ社会が既婚女性に求めた最大の務めであり、美徳でした。
【マルタとマリアの家のキリスト】、【牛乳を注ぐ女】を描いたフェルメールはそのことを十分に認識しており、【天秤を持つ女】にも同じような女性の美徳の視覚化を認めることができます。
フェルメール作品の中には、家事に勤しむ女性の姿を描いたものがいくつかあります。
そのインスピレーション源はその日常生活にあり、作品には、フェルメールが慣れ親しんだ日常の一コマを垣間見ることができます。
その中には単なる風俗画としてではなく、少なからず寓意的意味を含んでいるものも少なくないです。
日常の何気ない風景に寓意性を持たせ、さらに考え抜かれた構成によって、フェルメール独自の世界観へと作品を昇華させているのです。
④おわりに
この記事では、【天秤を持つ女】の見どころなどを解説しました。
【天秤を持つ女】はフェルメールの成熟の時代(32歳)に描かれた作品で、その作風が確立し、完成されたものであることを明示するような絵画であると言えるでしょう。
下記では、他にもフェルメールの全作品(全37作品)をまとめていますので、ぜひこちらもご覧ください。