【フェルメール】士官と笑う女の作品解説【決定版】
【士官と笑う女】は、男女の対話の様子が2人の表情や光の当たり方によって対照的に表現されている作品です。
この記事では、そんな【士官と笑う女】の解説をしています!
①作品の概要
◎フリック・コレクション蔵(アメリカ・ニューヨーク)
◎1658〜60年ごろの作品
◎油彩・カンヴァス
◎50.5cm×46cm
手前に描かれた士官は影を背負い、何やら不穏な空気を醸し出しているのに対し、奥の娘は屈託ない笑顔を見せています。
対照的な男女がどのような関係であるか、想像をかき立てられる一枚です。
見る者の意識が2人の目線の間に集中するように、フェルメールは構図を線密に計算して描いています。
壁にかけられているのはオランダ地図で、【青衣の女】にも登場します。
②作品の見どころ・解釈
フェルメールの作品の中で壁に地図が描かれた最初の作品です。
これまでの作品の壁には二人の人間関係を補足するような宗教画などの絵がかかっていましたが、これが地図に変わったことで、物語性が鑑賞者に委ねられることになりました。
また、地図を描くことによって、壁面の白さを強調する狙いもありました。
光の効果が絶妙で、影の中にいる男性の大きな背中と、明るく照らされた女性との対比が、明暗のコントラストを際立たせた“光の画家”の萌芽を感じさせる一枚になっています。
女性の服は【窓辺で手紙を読む女】と同じものです。
50.5cm×46cmという大きさ、窓辺の人物たちという趣向、反射光の処理、透視法を強く意識した構図づくりでフェルメール的なるものが出揃った最初の作品でもあります。
③作品の技法・画法・背景
フェルメールは、最初はカラヴァジスト、風俗画に転向してからはマース・ファン・ホーホストラーテンから影響を受けた作品が多いです。
物語性を捨てた【取り持ち女】が、市民社会の装いで再登場したといった趣向の【士官と笑う女】は誰の影響を受けてでき上がったのでしょうか?
上の写真は《カード遊びをする2人の兵士とパイプをつかめる女》で、ピーテル・デ・ホーホの作品です。
フェルメールが風俗画家に転向したその時期にデルフトに住んで、箱型の室内で男女が遊ぶ姿を繰り返し描きました。
彼は、1657年頃から室内の情景を透視法にしたがって構成するようになりました。
《カード遊びをする2人の兵士とパイプをつかめる女》はそのようにして出来上がった作品の一つです。
そのうえ、左側に窓のある部屋の人住み、机手前に背中を見せて右斜め向きで座る人物、彼に対面してその右前方に座る人物、壁面に平行な後ろの壁など、その作品の構成がフェルメールの【士官と笑う女】と一致します。
しかし、【士官と笑う女】はデ・ホーホ作品と似ていますが、大きく異なってもいます。
デ・ホーホでは3人の人物は同じ空間に偶然居合わせたといった印象ですが、フェルメールでは消失点(赤い線が収斂していく点)の位置や視線の交錯や、手前の士官をデ・ホーホの作品に比べ大きく描くことで、人物間に濃密な心理的関係が生まれています。
また、消失点に集まる線はもちろんのこと、画面の斜めに置かれた椅子や窓の桟も、左側の一点に集まるように描かれています。
これは、線遠近法(一点消失法)という技法です。
④おわりに
影を背負い不穏な空気を醸し出す士官と、屈託のない笑顔を見せる女性が対照的に描かれているのが、【士官と笑う女】の最大の特徴といえるでしょう。
この記事では、【士官と笑う女】の作品の見どころや画法などを解説しました。
構図に着目したり別の画家の作品と対比させたりするとまた違った見方ができますね!
下記では、他にもフェルメールの全作品を解説していますので、コチラもあわせてご覧ください。