【フェルメール】紳士とワインを飲む女(ワイングラス)の解説と意味
【紳士とワインを飲む女(ワイングラス)】は、リアルな描写が光る繊細優美な室内が特徴的な作品です。
作者は【牛乳を注ぐ女】や【真珠の耳飾りの少女】でお馴染みのヨハネス・フェルメールです。
この記事では、そんな【紳士とワインを飲む女(ワイングラス)】について解説しています!
①作品の概要
◎ベルリン国立美術館所蔵(ドイツ・ベルリン)
◎1661〜62年ごろ作
◎油彩・カンヴァス
◎67.7cm×79.6cm
フェルメールが同時代のデルフト派の画家ピーテル・デ・ホーホに影響されていたことは有名です。
本作品の、グラスに口をつける女性のポーズや、画面奥に人物を配置したところなどはデ・ホーホの一連の作品に倣ったものです。
とはいえ、室内装飾の優美さ、繊細でリアルな描写はデ・ホーホをしのぐものがあります。
厳密な線遠近法(一点透視図法)がとられていますが、床の市松模様に目をやると、遠近法を意識するあまり右手前が長方形に歪んでおり、フェルメールが正確な遠近法に苦しんだ痕跡が見てとれます。
ちなみに、椅子に置かれた弦楽器(リュート)は「愛」を、机上の楽譜は「調和」を意味することから、2人の恋愛関係を暗示しています。
②作品の見どころ・解釈・意味
まず目を引くのは、グラスを傾ける女性と、その女性にワインを勧めている男性の姿です。
男性は大きな黒いつば広帽をかぶり、そのいでたちからは家の主人ではないと推測されます。
鑑賞者はまるで、男女の駆け引きを垣間見たかのような錯覚を覚えたかもしれません。
また、視点を引いて捉えられた室内の中央辺りにタペストリーが描かれており、その暖色系の色合いで画面にほどよい華を添えています。
タペストリーの上には白い壺(デルフト焼のピッチャー)が描かれています。
ワインが入っているであろうこの白い壺を持つ男性は、自分の注いだワインを飲み干す女性に視線を送っています。
白い壺の金具に表現された光が際立っています。
タペストリーの持つ柔らかい素材感は、二人の親密さを強めているようでもありますが、他方で、ステンドを飾る擬人像は、【ワイングラスを持つ娘】と同じく、飲酒や不道徳性を戒めるモチーフです。
ステンドグラスに描かれている青い服と赤いスカートを身につけた女性が手にする直角定規は「きちんとした生活」、馬具は「節制」を暗示していることから、「きちんとした生活をしなさい」「節制を保ちなさい」という寓意になり、「誘惑」がテーマであると読みとれます。
タペストリーは、つづれ織りで模様を織りなす織物の一種で、ヨーロッパでは、中世以降ペルシャなどの東方から流入し、制作されるようにもなりました。
特にネーデルラントなどの北方地域で好まれて、壁掛けや絨毯、テーブル掛けなどに利用されました。
③作品の画法・技法・背景
リュートやワイングラス、タペストリーなど小道具をたくさん使って、物語を巧妙に演出しているのがこの時期に作られたフェルメール作品の特徴です。
床に描かれた、深い赤と黒の市松模様は、タイルが斜め45度対角線状に描かれており、画面に奥行きを生み出しています。
床の模様は右奥にいくにつれて極端に歪んでいますが、これは正確な遠近法に則って描かれたものです。
正確であるがゆえに不自然に見えてしまうというパラドックスを、この時代のフェルメールは克服しきれていなかったのです。
このタイルは当時の流行で、フェルメールは多くの作品にこの市松模様を取り入れています。
大きな動きがなく、静けさが感じられる絵ですが、タイルの奥行きによって鑑賞者たちは「隠れた動き」を楽しむことができるのです。
また、ステンドグラスの女性像の上には紋章が描かれています。
これはデルフトに住んでいたヤヌチュ・ヤーコブフトル・フォーヘルの紋章だと言われています。
彼女からの依頼によって制作したのであれば紋章が入っていても不思議ではありませんが、彼女はフェルメールが生まれる前に亡くなっており、依頼主であることはありえません。
なので、なぜ紋章が描き入れられたかは謎のままなのです。
④おわりに
実は、1901年にベルリン国立美術館が購入したときは、本作品は今と異なった姿をしていました。
ステンドガラスがはめ込まれた窓が塗りつぶされていて、カーテンと大きく開いた窓、その向こう側に見える外の景色が描かれていたのです。
後世の加筆や修正をすっかり取り除く修復が行われたことで、フェルメールが描いた当時の姿を取り戻すことができました。
下記では、他にもフェルメールの全作品を解説していますので、コチラもあわせてご覧ください。