【絵画】ワイングラスを持つ娘の解説・解釈【決定版】
【ワイングラスを持つ娘】は妖艶な表情を見せる誘う男と誘われる女が描かれた絵画で、作者は【真珠の耳飾りの少女】や【牛乳を注ぐ女】でお馴染みのヨハネス・フェルメールです。
この記事では、そんな【ワイングラスを持つ女】について絵画の見どころや画法、背景などを解説しています。
①作品の概要
◎ヘルツォーク・アントン・ウルリッヒ美術館所蔵(ドイツ・ブラウンシュヴァイク)
◎1658年ごろ作
◎油彩・カンヴァス
◎77.5cm×66.7cm
フェルメールの他の作品である【ワイングラス】と同じ室内で、同じくワインを飲む男女ですが、こちらは男性二人に対して女性が一人です。
ワインを勧める男性の視線を避けるように、女性はコチラを向いて微笑んでいます。
誘う男と誘われる女、背後にいるのは断られた男という図式で、【ワイングラス】よりも人物が前面に配置されていて、床の模様が隠されています。
フェルメールの試行錯誤の跡が見てとれますね。
②作品の見どころ・解釈
男が赤いサテン地のスカートをまとった女性に「誘惑」を象徴するワインを勧める場面を描いています。
作者フェルメールの他の作品と比べて、エロティックな雰囲気が漂うのが本作品の特徴の一つです。
画面奥には、片肘をつきふてくされているような、タバコを吸ううちに眠り込んだらしい男性の姿も見えます。
【ワイングラス】同様、ステンドグラスに描かれている女性が馬を操る馬具(手綱)を手にしていることから、「節制」を暗示しています。
快楽に溺れようとしている男女に対して警告を発しているのが見て取れますね。
この作品における節制とは、酒やタバコに夢中になることへの戒めであり、同時に女性に対しては、当時の作法書にあるように美しさと魅力を最大に生かしつつ男を誘い、純潔を失うことなく幸せな結婚ができるように努力を促すことです。
フェルメールは、本作品や【ワイングラス】からもわかるように、そうした曖昧模糊とした当時の恋愛模様を不分明なままに提示するのを好みました。
③作品の画法・技法・背景
透視法的に正確に構成された空間をいかに人の「住まう空間」にするか、それが1660年代の前後のフェルメールの課題であったように思えます。
画面を横形や縦形に変えてみたり、【稽古の中断】のように、床の部分を切り取ってみたり、フェルメールは自らの求めるイメージに向かって自己変革を繰り返していきました。
17世紀オランダでは、若い男女が(ときにワインを飲みながら)談笑する情景が好んで描かれました。
当初は、大勢が楽しく集う構図が好まれましたが、17世紀半ば頃から、人数を切り詰めたデ・ホーホやファン・ミーリス、ヘラルト・テル・ボルフの描く作品が人気をとるようになってきました。
ヘラルト・テル・ボルフはときに娼家と断言できる設定もしていますが、多くの場合、フェルメールを含めて、男女が金でのやりとりをする場なのか、男女の単なる談笑の姿なのか、必ずしも区別つくというわけではありません。
しかし、本作品に描かれている女性は娼婦ではなさそうです。
というのも、背後の壁にかかる先祖の肖像画から、この場が娼家でないと推測できるからです。
女性は、男性との交際にあたり、親の教えに従い、純潔を守った時に理想の結婚に至りつく、と若い女性に向けて刊行された当時の作法書にはそんな風に書かれていました。
しかし、当の若い人々は、実際にはかなり自由に恋愛を楽しんでいたようです。
④おわりに
この記事では、【ワイングラスを持つ娘】についてまとめました。
【ワイングラスを持つ娘】はその当時のジェンダー観をうかがわせる作品といえるでしょう。
下記では、他にもフェルメールの全作品を解説していますので、コチラもあわせてご覧ください。