【フェルメール】合奏の見どころと解説【決定版】
【合奏】は、3人の男女が奏でる音楽の中の静寂が特徴的な作品で、作者は【真珠の耳飾りの少女】や【牛乳を注ぐ女】でお馴染みのヨハネス・フェルメールです。
実は本作品は、1990年に盗難に遭い、現在もまだ行方つかめていません。
この記事では、そんな【合奏】について解説しています!
①作品の概要
◎イザベラ・スチュワート・ガードナー美術館所蔵(現在は行方が分かっていない)
◎1665年ごろ作
◎油彩・カンヴァス
◎72.5cm×64.7cm
床にチェロが置かれた室内で、3人の男女が音楽に興じています。
左からチェンバロを弾く女性、リュートを弾く男性、そしてその音色に合わせ歌を口ずさむ女性が描かれています。
手前には弦楽器(ヴィオラ・ダ・ガンバ)が横たわっています。
演奏中なのに静謐さに満ちているという不思議な空間です。
構図も題材も【音楽の稽古】と類似していますが、奥行きがより自然に表現されています。
チェンバロの蓋の絵と壁の左側に掛けられた絵が調和されているのも美しいです。
壁の右側の絵は、フェルメールの義母は所有していたオランダの画家ファン・バビューレンの《取り持ち女》で、【ヴァージナルの前に座る女】にも描かれています。
②作品の見どころ・解釈
【合奏】は、【取り持ち女】のように、娼家を題材にした作品であることから、3人が清廉潔白な関係ではないことを暗示しています。
ほぼ同じ構図の【音楽の稽古】と比較しても、3人の距離感の近さを含めて、親密な関係であることがうかがえます。
背後の壁の右側に掛かっているのは上述したように、義理の母が所有していたディルク・ファン・バビューレンの《取り持ち女》で、画中の女性がリュートを弾いているということを除けば、【合奏】との関連は不明です。
チェンバロは、【音楽の稽古】のヴァージナルと同じでルッカース製のものです。
この鍵盤楽器は200ギルダーほど(当時の単純労働者の年収ぐらい)ですが、この手の音楽を楽しめるのは、かなり裕福な家庭に限られていたことになります。
左の画中画とチェンバロの蓋の風景は、田園のくつろぎと音楽のいやしを関連づけているのかもしれません。
③作品の画法・技法・背景
若い男女が合奏に興ずる情景は、当時流行の主題の一つでしたが、「静けさに満ちた演奏場面」というのはフェルメールならではの意匠です。
当時の楽譜には旋律と通奏低音(伴奏)だけが記され、内声の和音は即興で演奏されました。
チェンバロを弾く女は、その即興演奏の最中で、【音楽の稽古】が終わり、【合奏】の実践が始まったのです。
また、その【合奏】は、音楽演奏の進捗の度合いばかりではなく、絵画としても【音楽の稽古】の次の段階を示します。
厚塗りはすっかり姿を消し、同時に、布の質感と光沢を手際良く視覚化する後期の手法が姿を現し始めています。
透視的法的にも、【音楽の稽古】とは異なる空間の切り取りによって、さらに自然な奥行きが生まれてきています。
【合奏】は、サイズの近似、主題の類似などの理由から、しばしば【音楽の稽古】の対作品と言われています。
④おわりに
本作品は、1990年盗難に遭い、現在もまだ行方つかめていません。
素晴らしい作品ですが、現在は実際に見ることができないのが残念です…。
下記にその盗難事件について詳しくまとめていますので、気になる方はどうぞ。
また、下記では、他にもフェルメールの作品(全37作品)をまとめていますので、こちらもあわせてご覧ください。