【フェルメール】絵画に描かれた手紙の意味とその6つの作品
フェルメールは現存する37点のうち6点の作品が「手紙」をテーマに取り上げた作品です。
37点のうち6点となれば、手紙が占める比率はかなり高いですね。
なぜ、フェルメールは「手紙」をテーマによく取り上げたのでしょうか?
それは、当時のオランダ社会事情と関わりがあるのです。
この記事では、そんなフェルメール作品の中でも手紙に焦点を当てて紹介します!
フェルメールが「手紙画」を書いた理由
「手紙」をテーマにした風俗画(手紙画)は、手紙を書く人、受け取る人、読む人、その内容に喜ぶ人、嘆く人など取り上げ方は実に多岐に渡っています。
こうした作品が描かれた背景に、手紙のやりとりを楽しめる識字率の高さとそれを可能とする郵便制度の発達があったことの2点が大きく関係しています。
当時のオランダは初等教育が進んでおり、近隣諸国と比べて識字率が高かったです。
書簡は、16世紀にはまだ公開を前提とする書き物でしたが、17世紀に入って郵便制度が整い、一般の人が書簡の交換をするようになると、プライヴェートな情報を送受信するメディアに変わって行きました。
その際に、人々が最も関心を寄せていたのが恋文でした。
そうした風潮に合わせて、優れた恋文の書き方、といったノウハウ本も盛んに出されるようになりました。
恋を成就させたいという願いは世の常のならいなのです。
こうした風潮を背景に、17世紀も30年代ごろから、画家たちは手紙をテーマにした作品を描き始め、手紙を扱った作品が多数生まれ、風俗画の中に「手紙画」というジャンルができたのでした。
「手紙」をテーマにした6つのフェルメール作品
①窓辺で手紙を読む女
◎ドレスデン国立絵画館所蔵(ドイツ・ドレスデン)
◎1659年ごろ作
◎油彩・カンヴァス
◎83×64.5cm
【窓辺で手紙を読む女】は、窓のある小部屋に画家らしさが表出した作品です。
X線調査によって、右上の壁に愛の神キューピッドの大きな絵が描かれていたことがわかっています。
手紙が恋文であることを示唆する狙いですが、後世に何者かが塗りつぶしました。
この作品、最近修復されてキューピッドが復活しました。
2022年に来日するので本物を見ることができますよ!
②青衣の女
◎アムステルダム国立美術館所蔵(オランダ・アムステルダム)
◎1663年ごろ作
◎油彩・カンヴァス
◎46.5cm×39cm
【青衣の女】は、シンプルな室内に差し込む雄弁な光が特徴の作品で、青い上着を羽織って一心に手紙を読む女性が描かれています。
どこの誰から届いたのか、夫のなのか恋人なのか、書かれているのは嬉しい知らせなのかそうではないのか、表情からうかがい知ることはできませんが、だからこそ絵を見るものは、自由に想像できます。
この画中画はネーデルランド(当時のオランダ地図)で士官と笑う女にも同じものが描かれています。
③手紙を書く女
◎ワシントン・ナショナル・ギャラリー所蔵(アメリカ・ワシントン)
◎1665年ごろの作品
◎油彩・カンヴァス
◎45cm×39.9cm
【手紙を書く女】は手紙を書く手を止め視線を向ける女性が特徴的な作品です。
フェルメールが描いた手紙をテーマとする6作品のうち、人物がこちらを向いているのはこの作品だけです。
女が着ているガウンはフェルメールが作品の中で度々登場させているもので、上手く黄色を使っています。
④婦人と召使い
◎フリック・コレクション所蔵(アメリカ・ニューヨーク)
◎1666〜1667年の作品
◎油彩・カンヴァス
◎90.2cm×78.7cm
【婦人と召使い】は、女主人と手紙を届ける召使いが描かれており、2人の表情と背景がドラマを想像させる作品です。
その訳知り顔と、女主人の戸惑ったような仕草から、手紙の差出人は訳ありの相手であることを察することができます。
女が着ているガウンは【手紙を書く女】と同じものでオコジョ(イタチの一種)の毛皮を使っています。
当時フェルメールの家にあったものを参考に描かれています。
⑤恋文
◎アムステルダム国立美術館所蔵(オランダ・アムステルダム)
◎1669〜1670年ごろの作品
◎油彩・カンヴァス
◎44cm×38.5cm
リュートの演奏中に召使いから手紙を届けられ、戸惑いの表情を浮かべる女主人が描かれています。
【婦人と召使い】に似た主題ですが、2人を隣の部屋からのぞき見しているような構図が新鮮です。
手紙が恋文であることを示す壁に掛かった船の絵をはじめ、暗喩を込めた小道具がそこかしこに散りばめられています。
この作品は、一度盗難被害に遭っていますが、後日返ってきた作品でもあります。
⑥手紙を書く婦人と召使い
◎アイルランド国立美術館所蔵(アイルランド・ダブリン)
◎1670年ごろの作品
◎油彩・カンヴァス
◎71.5cm×60.5cm
女主人が手紙を書き終えるのを召使いが待っています。
手前の床には本や印章、封蝋(手紙を封印するための蝋)が落ちていますが、女主人は構うことなく一心不乱に筆を走らせています。
召使いが、そんな主人に無関心な様子で窓の外に目を向けているのが印象的です。
床に捨ててある手紙は書き損じと考えられていましたが、修復により届いた手紙と解釈が変わりました。
こちらの作品も【恋文】と同様、盗難被害に遭っています。
フェルメールの作品はその価値が高く、度々盗難の標的に遭っていました。
おわりに
フェルメールは手紙に対し、流行のツールというだけでなく芸術表現における新たな可能性も見ていたのでしょう。
残された作品には時間をかけた試行錯誤の跡が読み取れますね。
この記事では、絵画に描かれた手紙の意味とその6つの作品についてまとめました。
下記では、他にもフェルメール作品(全37作品)を一覧にしてまとめていますので、ぜひこちらもご覧ください。