【フェルメール】ヴァージナルの前に立つ女の解説【決定版】
【ヴァージナルの前に立つ女】は、光に満ちた部屋で恋人を待つ女性が特徴的な作品です。
また、フェルメールの最晩年の特徴がよくわかる作品といえるでしょう。
この記事では、そんな【ヴァージナルの前に立つ女】について解説しています!
①作品の概要
◎ロンドン・ナショナル・ギャラリー所蔵(イギリス・ロンドン)
◎1670〜1672年ごろの作品
◎油彩・カンヴァス
◎51.8cm×45.2cm
これまでの作品の中でも一番明るい室内には、ヴァージナルを弾く手を止めてこちらに目を向ける女性がいます。
その頭の後ろには、他の作品にも登場する純愛の象徴キューピッドの絵が掛けられており、女性が恋していることを饒舌に物語っています。
40代に迎えてもなお創意を失わず、描き続けてきた「窓のある小部屋に立つ1人の女性」という主題で、フェルメールは再び力作を生み出しました。
②作品の見どころ・解説
顔は影となっているものの、身につけた服や装飾品の至る所に表現された光の粒子は実に美しいです。
手前の空いているイスは恋人を待っている証で、ブラウスの袖や額縁が最盛期のような精密描写であるのに対し、スカートは粗いタッチで、描い分けています。
キューピッド、市松模様、1人の女性、窓、ヴァージナル…これまで何度も描かれてきたものの集大成となっている作品です。
③作品の画法・技法・背景
【ヴァージナルの前に立つ女】で女性が身につけるドレスは、大きく膨らんだ袖に特徴があります。
この種のちょうちん袖はちょうど1670年前後から流行しました。
【ヴァージナルの前に立つ女】がフェルメールの後期に位置づけられる理由の一つです。
様式的に見ても10年ほど前に描かれた【窓辺で手紙を読む女】や【牛乳を注ぐ女】から随分変わってきた、というような感慨があります。
かつてのような厚塗りや極端な反射光の表現がなくなり、原色を際立たせるような色遣いも見られなくなりました。
また、描かれている色んなものも、キレのいい直線的な輪郭線でかたどられるようになりました。
その結果、いつになくメリハリのきいた、軽快な作品になっています。
フェルメールは【恋文】に続き、ここでもファン・リーミスに倣ったのかもしれません。
しかし、【ヴァージナルの前に立つ女】が何よりも初期作品と異なるのは、イメージの理解を見る者に委ねる、独特な非決定の雰囲気を捨ててしまったことです。
かつて【窓辺で手紙を読む女】で画家自ら塗りつぶしたキューピッドの画中画が、ここでは雄弁に見る者に語りかけてきます。
彼女の頭はちょうどその絵の左下隅にすっぽりと収まり、その頭の上には弓矢の下端が触れています。
彼女が今や恋の最中にいるのは明らかで、手前のイスはその相手を待って空いているというような情景です。
こうした読みは、画中画とオットー・ファン・フェーンのエンブレマータ《愛の寓意画像集》のなかの「ただ1人に」の図との類似からも明らかです。
この図には「恋するものはただ1人の者を愛さねばならない」とあります。
④おわりに
この記事では、【ヴァージナルの前に立つ女】の作品の見どころや画法、背景などをまとめました。
対となる【ヴァージナルの前に座る女】にも注目したいですね!
下記では、他にもフェルメール作品(全37作品)を一覧にしてまとめていますので、ぜひこちらもご覧ください。