作品の特徴

フェルメールが使った線遠近法(一点透視法)とは?その3つの作品

遠隔点と消失点
vermeer

フェルメールの作品の大半は室内の風景を描いていて、静けさに満ちた空間は、まるでそこに本当に存在しているかのようにリアルです。

フェルメールは「光の画家」として有名で、光を巧みに表現していますが、超絶な意匠(工夫)はこれだけでなく精密に構図を練り上げていることも大きな特徴として挙げることができます。

なかでも、注目すべきなのは、几帳面な「線遠近法(一点透視図法)」です。

この記事では、線遠近法とは?またその意匠を用いてできたフェルメールの作品について紹介します!

スポンサーリンク

線遠近法(一点透視法)とは?

牛乳を注ぐ女の一点消失法(消失点)

遠近法とは、近いものを大きく、遠くにあるもの小さく描き、奥行きや立体感を持たせる技法を指します。

多くの画家が取り入れた技法ではありますが、フェルメールの遠近法は驚くほど正確でした。

構図を決める際に、フェルメールは遠近法をとても重要視していたと考えられます。

その証拠が、カンヴァスに残る穴です。

遠近法における構図の中心を「消失点」と呼ぶのですが、カンヴァスに残る穴の位置が消失点と一致するのです。

ここに糸をつけたピンを刺し、糸にチョークの粉などをまぶします。

糸をピンと張ってチョークの跡を残せば、正しい遠近法の線が引けます。

あとはその寸法に従って、具体的にモチーフを描いていったのでした。

作品のほとんどに、こうしたピンの痕跡があります。

フェルメールは厳密な遠近法に則って描くことに、並々ならぬこだわりを持っていたといえます。

線遠近法にこだわった【ワイングラス】

遠隔点と消失点

もっとも、最初はフェルメールも遠近法の扱いに苦労していたようです。

遠近法では、「消失点」「遠隔点」が構図のポイントになります。

遠隔点とは、消失点から左右に水平に伸ばした線上にあり、【ワイングラス】の場合は上の画像のようになります。

画面の床の模様から、遠隔点は消失点よりかなり離れたところにあるのが分かると思います。

なお、二つの遠隔点から消失点までの距離は等しいです。

この遠隔点と消失点の位置関係によっては、カンヴァスの端でかなり歪みが生じてしまうのです。

【ワイングラス】の床の市松模様にも、そんな歪みが見てわかります。

手前中心の模様はそうではないのに、右奥にいくにつれて極端に歪んでいます。

セオリー通りではあっても見た目には不自然であると、フェルメール自身も感じたのでしょう。

消失点と遠隔点の位置を調節したり、カンヴァスの縦と横の比率を変えたり、極端な歪みが現れる部分を小道具で隠したりと試行錯誤を重ねました。

ワイングラスの線遠近法

そういった工夫の中で、ワイングラスで描かれている絵画は少し大きく描かれています。

正確な遠近法で描けば、もっと小さくなるのです。

ただ、そうすると画面に奥行きが出過ぎて、間延びした印象を与えてしまいます。

それを防ぐために、あえて絵画のサイズを大きくしたのです。

様々な工夫の末に、正しい遠近法を使い、なおかつ自然に見える空間を作り上げていったのでした。

あわせて読みたい
【フェルメール】紳士とワインを飲む女(ワイングラス)の解説と意味
【フェルメール】紳士とワインを飲む女(ワイングラス)の解説と意味

セオリーをあえて逸脱した【牛乳を注ぐ女】

牛乳を注ぐ女の遠近法

フェルメール作品に見られる均整の取れた構図は、精緻な遠近法によって生み出されたといっても過言ではありません。

しかし、強いこだわりがうかがえるこのセオリーから外れたものもあります。

といっても、フェルメールがうっかりミスを犯したわけではなく、意図的に仕掛けを施しているのです。

初期の傑作として名高い【牛乳を注ぐ女】は、その最たる例だといえます。

この作品の消失点は、女性の右手の甲の上あたりにあります。

ここから遠近法に則った線を引くと、画面の奥から手前に向かって幅広くなるテーブルができあがるはずです。

ところが、実際に描かれたテーブルは奥にいくほど幅が広いです。

遠近法の観点から考えるなら、矛盾した形なのです。

では、遠近法を厳密に守った場合は、どうなるのでしょうか。

消失点から手前の縁に向かって線をひけば、牛乳を注いでいる器ものらないほど狭いテーブルになってしまいます。(写真左)

逆に、奥の横幅に合わせば、今よりもずっとだだっ広いテーブルができあがります。(写真右)

必要なものを描きこみつつバランスの取れた構図を作るという点においては、どちらのテーブルも不都合だったのです。

そこで、フェルメールはあえてセオリーを逸脱し、本来ならあり得ない、しかしながら最も理想的な演出ができる形を選んだのです。

あわせて読みたい
【フェルメール】牛乳を注ぐ女の技法と解説【決定版】
【フェルメール】牛乳を注ぐ女の技法と解説【決定版】

消失点を基点としテーマを強調した【天秤を持つ女】

フェルメールの遠近法(天秤を持つ女)

フェルメールは、遠近法をただ忠実に用いたのではなく、【ワイングラス】【牛乳を注ぐ女】のように少しセオリーからあえて逸脱することで自然に見えるようにしました。

それ以外にも、遠近法を用いたフェルメールの巧みな意匠があります。

天秤を持つ女性の視線が注がれるところ、天分を持つ右手の指あたり、画中画の左下端、窓から斜めの光線が途切れるあたりに消失点があります。

つまり、フェルメールにとって消失点は構図構成上の基点であるとともに、絵のテーマの核心を強調する役割をも果たしていたのです。

フェルメールは、テーマを選び、そのテーマの構成する諸々を観察し、それらを最も効果的にいかす一点として消失点の位置を選んでいるのです。

窓の光も、女性の視線も、画中画の額縁(黄色の線)も、全てテーマである天秤あるところに集中しています。

そこは消失点の位置(青い線で示唆する消失点の集まる位置)でもあり、自ずと見る者の視線を誘う点でもあるのです。

あわせて読みたい
【フェルメール】天秤を持つ女の見どころと解説【決定版】
【フェルメール】天秤を持つ女の見どころと解説【決定版】

おわりに

緻密な遠近法を用い、また、自然に見えるようにあえてそのセオリーを逸脱する、消失点は単なる線遠近法の基点となるだけでなくテーマを強調する効果を含ませるというフェルメールの巧みなテクニックによって、フィクションと現実をなんの違和感もなく融合させているのです。

この記事では、フェルメールが用いた線遠近法についてまとめましたが、フェルエールが用いた巧みなテクニックはこれだけではありません。

下記では、そんなフェルメールの作品の特徴(意匠)についてまとめていますので、気になる方はコチラも参考にしてください。

あわせて読みたい
フェルメールの絵(作品)の5つの特徴【完全版】
フェルメールの絵(作品)の5つの特徴【完全版】

スポンサーリンク
ABOUT ME
スポンサーリンク
記事URLをコピーしました