【フェルメール】音楽の稽古の見どころを解説【決定版】
音楽の稽古は綿密に計算された超正確な遠近法が特徴的な絵画で、描いたのは【真珠の耳飾りの少女】や【牛乳を注ぐ女】で有名なヨハネス・フェルメールです。
この記事では、そんな【音楽の稽古】について解説しています!
①作品の概要
◎英国王室コレクション所蔵(イギリス・ロンドン)
◎1662〜1664年頃の作品
◎油彩・カンヴァス
◎74cm×64.5cm
フェルメールの楽器を描いた作品12点の中でも、本作は傑作と名高いです。
ヴァージナル(鍵盤楽器の一種)のレッスンする室内は奥行きが深く、厳格なまでに正確な遠近法で描かれています。
そのため、カメラ・オブ・スキュラ(外側の光景を反転した画像として映し出す装置)で得た画像のとおり描いた可能性が指摘されています。
明確に写実的に描かれた床のタイルや窓枠、テーブルクロスなど、一つひとつの要素が美しく、洗練を極めた一枚です。
鏡に映った女性の頭は、実際の映り方にはありえない方向(男性の方向)に向けられており、床には恋愛を象徴する弦楽器(ヴィオラ・ダ・ガンバ)が置かれています。
ヴァージナルのフタには「音楽には喜びの伴侶、悲しみの薬」という文があります。
②作品の見どころ・解釈
本作品は、小型のヴァージナルを演奏する女性の傍らで、優雅な服装の男性がその姿を熱心に見つめている姿が描かれています。
ヴァージナル(古い鍵盤楽器でチェンバロの一種)が「愛」を表現するアイテムの一つとして描かれています。
この作品に至るまでは、奥行きのある室内空間表現に苦心してきたフェルメールですが、手前にテーブルを置くことで、正確な遠近法でありながら、ゆとりのある空間を描き出すことに成功しました。
ヴァージナルの上にある鏡には、女性の上半身とともに、フェルメール自身の存在をほのめかすイーゼル(画架)が映っています。
製作中のフェルメールこそ描かれていませんが、フェルメールの自負がうかがえる細部であり、その意味では後年に描かれる【絵画技術】が思い出されます。
この作品には、50年代の濃厚な色彩と描法(手前の机を覆うタペストリーなど)と、滑らかな塗りと穏やかな色彩(ヴァージナルの色合い)が混在しています。
窓から入ってくる光は、壁に様々な影を落としたはずですが、女性と男性の上半身の影はどこにもありません。
透き通った明るい画面づくりのために、フェルメールはあえてそれらを省略しました。
画面右上に一部分が見える画中画《キモンとペロ》は、義理の母が所有していた「授乳する人物のいる絵」だと推測され、作者はファン・カウエンベルフです。
③作品の画法・技法・背景
【音楽の稽古】は、空間の切り取り方、透視法の設定(とりわけ消失点)の位置、モチーフの選択、選択されたモチーフ相互の空間の関係など、全てにおいて完成度が高いです。
室内には、これまでのフェルメール作品になかった実にゆったりとした深奥感が漂い始めています。
画面のほとんどを占める赤と黄系統の色彩の中で、いくつかの黒の短形(画中画の額縁、鏡の枠、ヴァージナルの枠、床のタイルなど)がアクセントとなって、画面を引き締めています。
椅子の青い背もたれは、画面中ほどにあって、この情景の主人公に確実に見るものの目を誘っていきます。
主題の面ではファン・ミーリスに、透視法的空間構成では、デ・ホーホに学びつつも、フェルメールはそれら2人の作品と全く異なる独自の風俗画の世界に辿り着きました。
④おわりに
この記事では、【音楽の稽古】の見どころや画法・背景などを紹介しました。
【音楽の稽古】は、英国王室のコレクションの一つで、公開される期間は短く、しかも不定期ですので、実物を見る機会はとても限られる貴重な一枚です。
下記では、他にもフェルメール作品(全37作品)を一覧にしてまとめていますので、ぜひこちらもご覧ください。