フェルメールとレンブラントの作品の違いは?作品を対比させて検証!
17世紀オランダの代表的な画家で当時から名が高かったレンブラントと、同じ17世紀オランダで没後評価が高まってきたフェルメール。
この2人の描いた作品は似ているところもあれば違うところもあります。
この記事では、そんな2人の作風を同じ主題やモチーフを切り口に具体的に作品を対比させてまとめましたのでぜひご覧ください。
また、下記ではレンブラントとフェルメール、2人の画家の共通点と違いについてもまとめていますので、気になる方はこちらも参考にしてください。
①カーテン
レンブラントの「カーテン」
脇に引き寄せられ、通常は垣間見ることのできない出来事を開示するカーテン。
キリストの生誕など、宗教的な主題を描く際に用いられた、西洋絵画史上の常套のモチーフです。
その伝統に連なって、レンブラントもカーテンを引いて、聖母マリアが大工の夫ヨセフの傍らで幼ないイエスの世話をする場面へと見るものを誘います。
しかし、この作品にはもう一つ大きな仕掛けがあります。
見ての通り、カーテンは額縁の前に下がりますが、その額縁も描かれたものです。
重層的に目を欺こうという趣向なのです。
その上、17世紀当時には、額縁の前にカーテンを下げ、埃除けにする習慣がありました。
レンブラントはカーテンに神秘の開示、目騙しの効果、現実習慣の写し、という三重の意味を盛り込んだのです。
本作品を制作していた頃、レンブラントとレンブラントの弟子たちは、工房で目騙しの効果の腕を競い合っていたのです。
引き寄せられた目騙しのカーテンは、実はプリニウスの伝える古代の2人の画家、ゼウクシスとパラシオスの腕比べにまでさかのぼります。
「絵画の古来からの王道を行ってるんだ」という、レンブラントの自負の声が聞こえてくるようです。
フェルメールの「カーテン」
ちまたの女性が手紙を読む室内を覗き見る、という演出で挑みました。
当時のオランダには、他のヨーロッパ諸国に先駆けてプライヴェートという概念が生まれつつありました。
活版印刷の発明、郵便制度の発達は、遠くにいる人との対話を可能にし、パブリックの成立に一役を買いますが、それは、裏腹の関係にあるプライベートの概念の誕生をも促したのです。
その新たな動きをどこよりも早く意識した市民社会オランダで、誰よりも敏感にそれを察知し、作品にしてみせたのがフェルメールに他なりません。
表舞台から一歩奥で暮らす女性の日常は、このプライベートの雰囲気を伝えるのにうってつけでした。
当初、背後の壁にキューピッドを主題とする画中画を描き、「女性の読む手紙は恋文だぞ」と示唆していましたが、後世に何者かによって塗りつぶされてしまいました。
ちなみに、この【窓辺で手紙を読む女】は修繕され、画中画のキューピッドが復元されました。2022年には初来日する予定になっています!
②トローニー
レンブラントの「トローニー」
フランス語を語源とするオランダ語「トローニー」は、17世紀には、不特定の人物の頭部あるいは上半身を描いた習作を指しましたが、さらに遡ると、醜く奇妙な顔という含みもありました。
後者の意味でのトローニーを表現研究に復活させ、市場価値を添えたのはレンブラントでした。
1630〜70年の史料に記録されている彼の作品315点中、3分の1の95点はトローニーで、高い流通度・認知度だったことが窺えます。
最も目立った制作時期は、1630年前後の己の物語画の型を探していた時期で、その中の代表作が《喉あてをした笑う男》です。
15.3×12.2cmの手のひらサイズで、とびきり下卑た笑い顔、大胆な筆遣いによる絵の具の積み重ね、いずれも異例づくめです。
一瞬の表情を急ぎ捉えたといった趣ですが、光学調査からは、特に顔の向かって右半分が盛んに手直しされたことがわかります。
トローニーはフランス・ハルスなどの作品も知られますが、挑発的な実験生と完成度を兼ね備えた《喉あてをした笑う男》のインパクトには及びません。
フェルメールの「トローニー」
フェルメールが描いたトローニーは、史料の上では3点、現存作品で2点のトローニーが確認できます。
没後の財産目録に記載のある画商としての在庫絵画50点のうち7点もの作品がトローニーです。
人物の微妙な表情を何よりも大事にしたフェルメールが、レンブラント同様、トローニーに大きなる表現上の可能性を見出し、市場価値ありと見なしていた証でしょう。
実際、【真珠の耳飾りの少女】にも習作の気配は一切感じられません。
《喉あてをした笑う男》の縦横三倍のサイズに描かれた少女は、大胆さと繊細さを兼ね備えた筆遣い、光の現象の細部にわたる驚くほど注意深い観察に支えられて、確かな眼差しで見る者を捉えてはなしません。
レンブラントがこわもての賑やかさで見るものの耳目に訴えかけようとしたものに対し、フェルメールは溢れそうな瞳、物言いたげな半開きの唇、真珠に反映した窓の光で、見る者の注意を画中に引き込みます。
③スナップショット
レンブラントの「スナップショット」
人物描写を見る最大の楽しみの一つは、人物の表情やしぐさ、それらが示唆する心の動きがいかに表現されているかを探ることです。
だからこそ、レンブラントは納品遅れの弁解として「最も深遠で真に迫った感情の表現に苦心したから」と1639年に書き送ったのでしょう。
実際、そうした感情表現がレンブラントの得意とするところだったことは、《船大工ヤン・レイクセンとその妻》からも明らかです。
東インド会社専属の船大工ヤンは、船の設計図を描いている最中だったのでしょう。
右手の人差し指にひっかけたコンパスがそれを物語ります。
彼は不意を突かれた表情で体をねじり、顔を画面の方に向けます。
そのアクションを起こさせたのは、右奥のドアを開け、この部屋に乱入してきた妻です。
彼女は、左手でなおドアのとってをつかんだまま、右手で夫に手紙を差し出します。
その表情からは、なかなかに緊急度の高い知らせであることがわかります。
カメラ時代にはなんということもないスナップショットですが、静止画像である絵画の表現としては、考え尽くされた2人の位置取りといって良いでしょう。
フェルメールの「スナップショット」
手紙のやりとりは、当時の絵画の人気テーマの一つでした。
だから、フェルメールをはじめとした風俗画家たちが、肖像画とはいえ、レンブラントの意匠を見逃したとは思えません。
実際、フェルメールの【婦人と召使い】では、同じような、二人が対面する不意の瞬間が取り上げられています。
ただし、ここには、レンブラント作品のメリハリの効いた明暗、大きなアクション、劇性を漂わせる人物配置はありません。
明暗が常よりは少し強めですが、それは、背後が暗くカーテンで閉ざされていること、女の黄色のジャケットのキビキビとした表現によるもので、画像全体として見れば、レンブラントのよりはるかに抑制の効いた処理になっています。
見えているのは、もっぱら手紙を渡し(あるいは受け取り)ながら、話しかける召使いの穏やかな表情です。
左手を額に当てた仕草は、何事か思索にくれていることを示唆しています。
おわりに
この記事では、レンブラントとフェルメール、2人の画家の共通点と違いについてまとめました。
下記では、そんな2人の生い立ちや生涯についてまとめていますので、気になる方はこちらも合わせてご覧ください。