【フェルメール】地理学者の絵画の解説【決定版】
【地理学者】は日本の着物を着て世界に思いを馳せる学者が描かれている作品で、作者は【牛乳を注ぐ女】や【真珠の耳飾りの少女】などでお馴染みのヨハネス・フェルメールです。
この作品は、対となる【天文学者】とあわせて見どころが多い作品です。
この作品では、そんな【地理学者】について解説しています!
①作品の概要とモデル
◎シュテーデル美術館所蔵(ドイツ・フランクフルト)
◎1669年の作品
◎油彩・カンヴァス
◎51.6cm×45.4cm
【地理学者】は【天文学者】と対になると考えられる作品で、モデルも同一人物と言われています。
【天文学者】より明るい室内では、男性が右手にコンパス(ディバイダー)を握り、大きな海図らしき紙を広げています。
床にも巻かれた状態の海図が2本あり、背後に地球儀と地図があるのはいかにも地理学者らしいです。
男性が来ているガウンは、「ヤポンス・ロック」と呼ばれる日本の着物です。
当時世界を股にかけて活動していたオランダの東インド会社が、遠く東洋の島国からもたらした衣装は、当時の富裕層のステータス・シンボルにまでなりました。
なお【天文学者】と【地理学者】にはそれぞれ1668年、1669年と年号が記されており、制作年が特定できる数少ない作品です。
他に、年号が記されている作品は、【聖プラクセディス】と【取り持ち女】の2点だけです。
②作品の3つの見どころ・解説
1.2つの地図
作品では右半分が見えているのみですが、ウィリム・ヤンスゾーン・ブラウによる実在の地図が忠実に描かれています。
ブラウ家は当時の地図製作の大家です。
また、今まさに新しい世界が書き込まれようとする地図が机上に置かれており、外からの光を受けて白く輝くように描かれています。
2.ディバイダー
右手に持っているのはコンパスに見えますが、正しくはその一種であるディバインダーです。
古くから天文学や幾何学の擬人像のシンボルとされ、17世紀には最新の科学を象徴する道具としてみなされました。
3.地球儀
棚の上の地球儀(天球儀)も実在するホンディウス作の名品です。
オランダの貿易相手である中国や日本に向かう航路をわざと見せています。
③作品の画法・技法・背景
【天文学者】の制作から1年を経た本作は、主題も構図も似ているとはいえフェルメールのさらなる模索の痕跡が見られます。
奥行きをとった室内はより明るい光に満たされ、また部屋中に天文道具類が散りばめられ、思考を深める学者と室内空間の表現が拮抗した意欲作になっています。
17世紀は大航海時代に引き続いて地理的発見の時代です。
冒険家はもちろん、天文学者や地理学者も海の向こうの新しい世界を求めて情熱を燃やしていました。
東インド会社が中心となり海上交易で莫大な富を得たオランダで盛んになったのが、地図の製作・出版です。
【士官と笑う女】、【絵画芸術】、【窓辺で水差しを持つ女】、【青衣の女】など、フェルメールの作品で頻繁に地図が登場するのは画家自身の好みもあったのでしょうが、空前の地図ブームが起こっていた当時のオランダの様子を物語っています。
地図製作の中心地であったアムステルダムでは、ブラウ家、ホンディウス家、フィッセル家などが互いに競い合い、正確さを極めた地図を製作・出版しました。
正確と言えば、フェルメールによる地図の描写にもいえることで、その精密な出来栄えは現代の地図学にも貢献しています。
④おわりに
この作品には、様々な道具が登場します。
机や床の上に広がり丸まった紙、ディバインダー、直角定規などが、光を受けて輝いて見えます。
しかし、学者はこれらの道具に関心を示さず、作業の手を休め、爽やかな緑にわずかに透けて見える窓の方を見ています。
X線調査により、当初、彼は、テーブル上の紙の方に目を落としていたものの、最終的に、顔を窓の方へと向けたことが分かりました。
強い光を顔に受けながら窓の外に目を向けているのは、世界の海に思いを馳せているからではないでしょうか。
窓の向こうを見つめる真剣な眼差しに、情熱の炎が静かに燃えているのです。
この記事では、【地理学者】の作品の見どころやモデルについて画法や背景などをまとめました。
下記では、他にもフェルメール作品(全37作品)を一覧にしてまとめていますので、ぜひこちらもご覧ください。